*   *   *

 ――そして、紫は瞼を閉じ、
「また、上手く行ってしまったのね」
 ぼそりと、寂しげに呟いた。

   *   *   *



#Repeated One


 蓮子が命を落としてから、果たしてどれだけの歳月が過ぎ去っただろう。
 千か、二千か、或いはもっと?
 ――否。
 そんなもの、想いを馳せる意味すらない。
 積み重ねた歳月は、全くの徒労だったのだから。

 失われた命は、過去を改竄しても帰っては来なかった。
 正確には、私が手助けをした世界では、蓮子の命は救われた。
 だが、私が居た世界に、蓮子が蘇ることはなかった。
 そうして初めて気付いたのだ。
 例え彼女の命が救われたとしても、それは私の居た世界ではないのだと。

 永遠に、待ち人は来ず。
 故にわたしは、ひとりきり。


 一度目での経験を元に、もう一度、過去の改竄を試みた。
 だが、それは私に――私が手助けした過去の私に、阻まれた。

 彼女は、私と全く同じ事を繰り返していたのだ。

 全ては廻る因果の環。  少し考えれば分かったはずの、当然の帰結。
 そうして二人は、感動的な再会を果たし、

 私だけが、爪弾きにされた。


 どれだけの世界を、こうして見つめ続けてきただろう。
 十か、二十か、或いはもっと?
 ――否。
 そんなもの、想いを馳せる意味すらない。
 全ての世界は、私を拒絶し続けたのだから。

 けれど、それでも。
 私は世界を、見つめ続ける。

 其処には蓮子の息吹があり。
 私が掴み得なかった、未来があるのだから。



   *   *   *

 ――そして紫は瞼を開き、
「さあて、次はどうなるかしら?」
「気をつけなさいな、マエリベリー。隙を見せれば、成り代わるわよ」
 新たな世界を見遣るのだった。

   *   *   *
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