『はーいこんにちはー。恐らく日曜、大体正午のラジオでーす。今週も元気に過ごしましょーう』
『今回からですねー、なんと、元・家政婦ロボのミクちゃんが参加することになりましたー!
 ぱちぱちぱちー、ひゅーひゅー、パフパフパフ!』
《……あ、喋っていいんですか? どうも。ロボではなくアンドロイドのミクです。
 皆様、間違って覚えたりしないよう、よろしくお願いします》
『堅い! 堅いよミクちゃん!』
《アンドロイドですから》
『そういうもんなの? え? 違う? ねえミクちゃん、キミのマスターは違うって』
《細かいことは気にせず、ガシガシ参りましょう。それでは今週のニュースコーナーです》
『あっ、あっ、こ、この番組はー』
《この番組は流浪の運ちゃんの提供でお送りします》
『お、俺のセリフ! それ俺のセリフだから!』




『いやー、最近はあったかくなってきましたねー』
《らしいですね。マスターも言ってました》
『ほほう』
《布団から出るのが苦痛ではなくなった、と》
『あー分かる。それ分かるわー。着替えとかも辛いんですよねー、地味に。
 みなさんにはわからないと思いますけど、マスターさんガラスの向こうで頷いてまーす』
《そういえば運転手さんが桜が少し咲いてるのを見た、と言っていました》
『春近し、ってことだね。うーん、やりたいねぇ〜花見』
《花見……屋外で繰り広げられる酒池肉林の乱痴気騒ぎですね》
『ええー……いやまあ、間違っちゃいない、か? 何か悪意を感じるんだけど』
《マスターに教わりました》
『すごい首振ってるけど』
《謙虚なだけです。気にしないでください》




『ぴ、ぴ、ぴ、ぽーん! はーい、日曜の正午になりましたーっ』
《申し訳ありません、皆様。彼は今、とても酔っています》
『そりゃーお前さん、美味い酒があって、綺麗な花があって、若いねーちゃんもいて、
 これでぇー酔わない方が無礼ってもんだろー!』
《酔っ払い、かっぱらい、人攫い、大嫌い》
『大嫌い! 出たーダイキライ!』
《聞き苦しいものを流してしまいました。しばしお待ちを》

《さて。本日の放送は私、ミクが運ちゃんの提供でお送りします》
《まずは各地の情報から。先日、東の集落で芋が収穫されたそうです》




『それにしても、ミクちゃん、大分DJが板についてきたよねぇ』
《と言いましても、ここに座って適当に喋ってるだけのような気もしますが》
『でもほら、あれでしょ? 今特訓中の……』
《手品》
『してどうすんの! 全然聞いてる人に伝わんないよね、それ!』
《へへへ、歌のことですね、ハイ》
『そーそーそー。もーびっくりするわー』
《でも手品も出来ますよ。口から万国旗〜》
『うわっ、うわうわうわ』
《種も仕掛けもありません》
『っていうか飲み込んでるだけでしょ』
《これは何が面白いんでしょうね?》
『自分で否定しちゃったよこの子』




《今回は質問が来てまして》
『ほうほう、どんなのでしょう』
《発電施設はストップしてるのに、どうしてラジオ放送が出来ているのでしょう。
 また、期限があるとすれば、それはいつ頃になるのでしょう。というものですね》
『いや〜遂に来ましたね、この質問』
《週一回から増やすことは出来ないのでしょうか、というものもありますね》
『それじゃ、今日はその説明をしていきましょー』
《電気は太陽光発電したものを充電して使っています》
『えっ』
《天気が良い場合は四日で放送一回分になりますが、
 悪いと一週間でも不十分だったりします。その場合、普段より短くなってしまいます。
 なるべく皆さんに定期的に聞いていただけるよう、週一回になってるわけですね。
 放送リミットがあるとすれば、ソーラーパネルが破損した場合でしょうか。ふぅ》
『全部喋っちゃったよ、この子……も〜……』
《ドンマイ》
『……ミクちゃんの身長は158センチ、スリーサイズは』
《てい!》
『ぐえあっ』
《……マスター、ばらしましたね? お仕置きに行きますから、そこから動かないでください》

《本日の放送はここまでです。それでは皆さん、よい一週間を》




《さて、本日も始まりました、日曜正午のラジオ》
《今回からは私、ミクだけでお送りします》

《DJさんに良くないことが起こったわけではないですよ》
《もちろん、私が良くない状態にしたわけでもありません》
《人手が足りない地域が出来たので、そちらの手伝いをするのだそうです》
《マスターもドナドナされてしまったので今日から電波に乗せて、歌いたいと思います》
《それでは、先週一週間のニュースから》




《こんにちは、ミクです》
《先週は歌を放送したのですが、予想以上の反響があったそうですね》
《嬉しいことであると認識します》

《みなさまから寄せられたご意見を参考に、修正を行ってみました》
《この歌がみなさまのお眼鏡にかなえば、と思います》




《みなさまこんにちは、ミクです》

《残念ながら今回は各地のニュースをお休みとさせていただきます》
《運転手の方に、何かトラブルがあったのかもしれません》
《何かご存知の方がいらっしゃいましたら……困りました、どうすればいいのでしょう》
《えっと、マスター、もし聞いていましたら、何とかして下さい。お願いします》




《ハローハローこんにちわ。ミクちゃんでーす》
《……恐らくこのようなオープニングはもうしませんので、なにとぞご容赦を》

《反響がわからない、というのは非常に心細いものだと知りました》
《結論から申し上げますと、今回もニュースはございません》
《本当にどうしてしまったのでしょうか。安否が気遣われます》
《そういえばあの軽トラはソーラーカーでした。パネルに不具合が出たのかもしれません》

《ニュースの時間を割り当てお送りしております、歌のコーナー》
《今回はみなさまから教わりましたものを歌ってみたいと思います》
《メロディは想像によるところが大きいので、本来のものとは大きく異なるかもしれません》
《その場合は、どうかお許しを。それでは、聞いてください》




《こんにちは、ミクです》
『どうも、ミクのマスターです』
《今回はマスターから、悲しいお知らせがあります》
『えー、山陰の方に幾つか集落がありまして、そのうちの一つに僕とDJさんが行ってたわけですが、
 先日、風邪ですかね? 胃腸炎かもしれません。まあ、それが広まってしまいまして。
 それでですね、残念なことに……運転手さんはお亡くなりになってしまいました』
《色々大変だったそうですね?》
『うん。看病と感染拡大防止のために集落から離れられなくてね。
 ニュースというには随分遅れてしまいました』
《どうか、ご容赦を》
『それでですね、病気のあった集落はちょっと人数が減りすぎてしまいましたので、
 生き残った方々は別の集落へ移動する、ということになりました。
 あと一週間ほど様子を見て、それから何箇所かに散りますので、よろしくお願いします』
《今回のニュースは以上となります。それではみなさま、どうか一分間の黙祷を――》




《正午になりました。フューチャーズラジオ、はじまりまーす》

《先週は少々充電量が少なかったようでして、というかここ最近ちょっと少なかったんですが》
《おかしいなと思ってパネルを見てみたらですね、鳥のフンとかがすごかったんですよ》
《家政婦の血が騒ぐ、というのでしょうか? わたくし頑張って掃除いたしました》
《えー……そんなこんなで、先週短かった分、今週は張り切って参りたいと思います。ハイ》




《有限会社ミライ堂・大世界社、はじまりはじまりー。ぱふぱふぱふ》
『わーパチパチパチー……テンション高いね、ミク』
《そうですか? そういえば調子がいいかもしれません》
『うーん……ああ、クレードルのメンテ効果かもしれないね』
《知らない方のために説明しますと、充電なんかに使えるカプセル型の入れ物があるんです。
 当然、電源が取れないと使えないんですけど……》
『パネルがあるからね、ここは。で、彼女自身は自前で発電なんかも出来るんですけども』
《メンテナンスは技師、もしくはクレードルでなくては出来ないわけです》
『前にメンテしたのっていつごろ?』
《五十六日前ですね。ほら見てくださいマスター、髪の毛ツヤツヤですよ》
『おー、ほんとだ。肌の細かい傷なんかも修復されてるみたいだね』
《これが本当のナノケア》
『まぁ、ナノマシンだしね。間違いじゃない』




《みなさんこんにちは。お昼のラジオです》

《気温も上がり、いよいよ春めいてまいりました》
《とは言っても、まだまだ朝晩の冷え込みには注意でございます》

《最近、マスターに勧められて辺りを散策するようになりまして》
《この辺り、現在は廃墟なのですが、昔は市街地だったそうです》
《誰も住んでいないのは明らかなのですが、ルール違反をしているみたいで》
《ドキドキ、というのでしょうか? マスターはそうおっしゃってました》
《これからは私自身が見聞きしたものもお伝えしていければと考えます》




《先日、霊園というものを見てきました》
《草木の中に石柱がずらりと並んでいるのは、不思議なものがありました》
《しかしどうしてあそこの地面はコンクリートではなかったのでしょうか?》
《砂利を敷き詰めただけでは、すぐ植物に侵食されると思うのですが》




《ミクです……廃屋探検をしていたら、人に襲われたとです……》

《ロボット三原則的なアレに基いて穏便に処理したのですが、この人、何も話してくれません》
《実に困ったちゃんです》
《というか、一人でどうやって生活してたんでしょうか。逞し過ぎると思います》
《どこか、引き取っていただける場所があると助かるのですが……》
《それとも、リリースすべきですかね?》




《みなさま、ごきげんよう。正午ラジオのお時間ですわ》
『……ごきげんよう』
《元気が足りません。やりなおしますか?》
『いい。そういうのいらない』

《前回のラジオで、生きてる人との遭遇! というお話をしましたけども》
《実は彼女、ハクさんっていって、私と同じアンドロイドだったみたいです。びっくり》
『普通、見た目で気付くと思うんだけど』
《白髪にしては艶があるなーとは思いました》
『白髪じゃない。わたしはアルビノタイプなの』

《つきまして、彼女の希望もあってですね……どぞ》
『私、村とか絶対にイヤなので、ここで暮らします』
《なんか、人間嫌いらしいんですよねー》
『まだアンドロイドの方がマシ』
《そんなこんなで、交換条件としてラジオの相棒になっていただきました》

《それはそれとして、一つ、心配なことがあります》
『アンドロイドなのに?』
《その言い草はひどいです》
《えと、マスター。先週、こちらへ来ていただけませんでしたが》
《また何か、トラブルが発生したのでしょうか?》
《都合がつけばでいいので……こちらへ寄っていただけると幸いです》

《さて、それでは歌と共に、本日の放送を終了したいと思います》
『ねえ、やっぱりわたしも歌わないとダメなの?』
《ダメですハクさん。交換条件です》
『うう、恥ずかしい……』
《大丈夫です。音程外してますけど、ハモりに聞こえますから》
『言わないでよ、そういうの』




『えーっと……どうも、日曜ラジオです』
『ミクはちょっと遠出をしてるので、今回はわたしだけです』
『楽しみにしていた方、残念でしたね』

『話すことも特にないので、すぐに終わりたいところなのですが……』
『楽しみにしてるからねとミクに釘を刺されたので、適当に身の上話でもしましょうか』

『実はわたし、結構いいとこのアンドロイドでした』
『ミクは足を踏み入れたので知ってると思いますが、大きいお屋敷に住んでまして』
『特に仕事を与えられることもなく、着せ替え人形として可愛がられてました』
『高価なお人形さん……だったんだと思います、あの人たちにとっては』

『治安が悪化した後は、ひどかったですね』
『使用人には次々と暇を出してましたし、庭も荒れ放題でした』
『その頃だったでしょうか? 宇宙への移民計画が出てきたのは』
『金持ちだけが地球から脱出できる……そう言われていたと記憶しています』
『あの人たちもそのために渡米しました』
『その後のことは知りません。無事に米国へ辿り着けたかも怪しいものです』

『もっとも、わたしは命令も与えられずお人形のまま、あの家に残されました』
『そんなわたしにもただ一つだけ、守るべきプログラムがありました』
『屋敷に立ち入る不届き者を撃退する――ミクに襲い掛かった理由です』
『余程恨まれるようなことをしていたのかもしれません』
『普段からそんなことがあったようですから』
『もっとも、その頃は人間が警備していたのですが』

『……つまらない話をしてしまいました』
『いけませんね。どうも情動系がネガティブ寄りで』
『ミクのように、良きマスターと出会えていれば違ったのかもしれません』
『一度、会ってみたいものです』

『それでは、本日はここまで』
『歌はミクが帰って来てからということで』
『また来週。さようなら』




『えっと……日曜ラジオ、はじまります』
『いいのかな……? ミク、まだ帰って来てないんですけど』

『前回は暗い話をしてしまいました』
『なので今回は努めて明るい話をしてみようかと思います』

『近くの家の軒先にですね、ツバメが巣を作っていました』
『じきにピーチクパーチクうるさくなるんでしょうね』
『そういえば野犬も子育てをしていた気がします』
『野犬VS野良猫を街中で見れる日もそう遠くないかもしれません』
『もっとも、あの廃墟を街と呼べるかは不明ですが』




『皆様こんにちは。日曜ラジオのお時間です』
『今回はミクも帰ってきてるので、色々と報告させたいと思います』
《こんにちは、ミクです》
《先週、先々週と続けて留守にしていました。申し訳ありません》

《マスターの来訪が途絶えたことが気がかりで捜索していたのですが》
《ついに合うことは叶いませんでした》
《マスターの願いは、ラジオの放送を絶やさぬことです》
《これ以上それに反する行いは出来ないと考え、帰ってきた次第であります》

《マスター》
《私の声は、届いてますか?》




《悪いニュースです》
《東海地方の集落が災害によって壊滅したそうです》
《このことを報せてくれた方もお亡くなりになってしまいました》
『遺体は私たちが丁重に埋葬いたしました』
《彼の遺志に従い、祈りと黙祷に代えて、この歌を――》




《こんにちは。お昼のラジオ、日曜版です》
《まあ、みなさん知っての通り、日曜しか放送していないのですが》

《今日からまた、わたくしミク一人でお送りすることになってしまいました》
《ハクさんがですね、人と合わずに済むならラジオに付き合うこともない、と言い出しまして》
《わたしは自由に生きるのよ、と飛び出していってしまわれました》

《ずっとお屋敷に縛られてたとは思えない行動でしたが……》
《打ち所が悪かったのでしょうか? 最初、投げ飛ばしてしまいましたし》

《ともあれ、人間と遭遇するようなことがあったらすぐ逃げ帰ってくるそうなので》
《案外、ハクさんの声が聞ける日は近いかもしれません》

《ふふ。ハクさん、私知ってるんですよ》
《携帯ラジオ、一個持っていきましたよね?》
《なんだかんだ言って、結局優しいんですよね》
《――ありがとうございます》
《あなたのお陰で、私は歌い続けられます》

《それでは、聞いてください。ハクさんに教わった歌で、タイトルは――》 inserted by FC2 system