物が密集した狭い空間の中。 ヘッドフォンを耳に押し当て、体を揺らす青年がいた。 「〜♪」 「ねえ、おにいちゃん」 その楽しげな様子に興味を惹かれ、少女が声をかける。 「ん? どうかした?」 「何、聞いてるの?」 「ラジオだよ。聞いてみる?」 「らじお……?」 聞きなれない単語に疑問符を浮かべる少女に、青年はヘッドフォンを差し出した。 「わぁ……!」 「気に入った?」 「うん! ねえねえ、これなに?」 「多分、ラジオ番組だよ。誰がやってるのかはわかんないけど……」 「らじお……ね、そのらじおって、どんなの?」 「へぇ〜……地球からとどいてるんだぁ」 「いつ頃放送したのかはわかんないけど、多分ね」 「じゃ、あたしたちといっしょなんだね」 「ん?」 「だって、宇宙をとんでるんでしょ?」 「あーはいはい、なるほどね。うん、確かに一緒だ」 「ね、終わっちゃったよ?」 「次はまた七日後くらいかな。また聞く?」 「うん!」 「それじゃ、またおいで。今度は二人で聞けるようにしとくよ」 / 日曜日の正午。 ラジオ塔からはいつものように、電波が発信されていた。 「こんにちは、日曜日、正午のラジオです」 「この放送を始めてから、幾つもの季節が移ろいました」 「マスター。きっと貴方はもう、あの雲の向こうへ行ってしまったのでしょう」 「ですが、そこからでも構いません。ずっと見守っていてください」 「そして、私を選んでくれて、ありがとうございました」 「この想いを、歌に乗せて。空の果てまで、届くと信じて――」